クライミングでIoTを使ってみました

ビキアの萩尾です。

今回はIoTをスポーツ(フリークライミング)で利用するケースについて紹介します。

フリークライミングは、自然や人工の岩壁を人工的な道具(ロープや縄梯子など)を使わずに自分の力だけで登るスポーツです。ただし、落下した時の安全確保のために、腰に巻いたハーネスにロープを結ぶ場合もあります。

さて、今回のブログでは、クライミングジムにおいて、登る人(クライマー)にIoTセンサーを装着し、7~8メートルのルートを登った動作について計測したデータを紹介します。ちなみに、センサーは服の上にテープで貼り付けたのですが、服がよれたりすることもあったため、精密なデータとはなっていないことを予め承知の上参考にしてください。「IoTセンサーを使ったらこのようなデータが取れた」程度として受け取ってください。

まず、登っている環境ですが、下の写真のように人工的な突起(ホールド)が取り付けられている壁が現場となります。ホールドが色分けされているのは、「〇色のホールドだけを使って登るとグレードが〇級」のように難易度が分かるようになっているからで、自分の実力に応じて登るルートを選べるようになっています。手前にロープが上まで続いているのが見えますが、クライマーは、壁に取り付けられている”開閉式ゲート付金属の輪(カラビナ)”に自分のロープを順次通しながら登っていきます。ロープのもう一方には安全確保要員(ビレイヤー)がいて、ロープの送り出しや保持を行っています。ビレイヤーは常にロープの長さの調整を行っており、クライマーが力尽きて落ちたりした時に床まで落ちないよう食い止めます。写真の壁は上級者用で、手前に20度ぐらい傾斜しており、クライマーが落ちると宙吊り状態になります。


では、データの紹介です。
下のグラフは、私の友人にこの壁を登ってもらい、最終点近辺で意図的に落ちてもらったケースのものです。X軸は時間の経過、左Y軸は加速度、右Y軸は気圧の数値です。データのサンプリングは1秒間に10回行っています。

まず、気圧と上下の加速度(“加速度Y”のラベルがついたもの)を示したグラフ(下図)です。気圧のデータからは、クライマーが壁を登り始め高度が上がるのにしたがって気圧が下がっていることがわかります。トータルで7~8メートル程度の高さですが、気圧が微妙に変化しているのです。後半6:10のあたりで急激に気圧が上がっていますが、このタイミングでクライマーがホールドから手を離して3メートルぐらい落下しました。その後はビレイヤーがロープを繰り出してクライマーを床まで下ろしたので、ゆっくりと気圧が上がっています。
次に、上下の加速度についてですが、まず、マイナスの方向に動いている加速度は、センサーが上に持ち上げられたことを示します。4:40と4:43の間近辺でクライマーが素早く登った特徴があります。後半、クライマーが落ちた瞬間にプラスの方向に加速度が発生しました。その直後に今度はロープが張りつめてビレイヤーの落下を止め、続いて伸びきったロープが縮む事で上向きの加速度が発生しました。クライミング用のロープは衝撃を和らげるために結構伸びるようにできているのです。


更に、左右(“加速度X”のラベルがついたもの)と前後(“加速度Z”のラベルがついたもの)の加速度を追加してみます(下図)。まず、初期値がX,ZとYで違っていますが、Yは重力が常に作用しているために-1近辺になります。一方、XZ(水平方向)には重力は影響しないために0を指します。このグラフのX,Z軸の変化では、クライマーが前後左右にどれぐらい振れていたかがわかります。
前後の加速度において、登り始めてすぐにマイナスの加速度がついていますが、登った壁は手前に傾斜しているので、体も反り返った状態になり、重力の影響を受けてマイナスの加速度になります。


また、ここでは紹介していませんが、今回使用したIoTセンサーは地磁気も計測できるので、クライマーの向きの変化も把握できます。ビデオで同時に録画しながら記録すればさらにわかりやすいデータになるでしょう。

最後に、今回のこのデータによって何かの新しい発見があったわけではありませんが、競技者にIoTセンサーを取り付けることで様々な知見を得ることができます。なにより、このIoTセンサーは小型でどこにでも装着でき、データは無線で飛ばすので、競技者の邪魔にはなりません。以前のブログで紹介した通り、水中でもある程度の深度ならなら電波を飛ばせるので、競泳などでも使えるかもしれません。
これまでにもスポーツ専門の計測センサーは数多く存在していると思いますが、今回使用したIoTセンサーキットは、汎用性があり、かつ低コストでセンシングできるのが大きな強みです。